社会の中で真実を明らかにすることを使命とする職業はいくつか存在します。その代表格が、法的手段を通じて正義を実現しようとする弁護士と、独自の調査活動によって事実関係を明らかにする探偵業者です。両者は一見異なる職業のように見えますが、実際には密接な関係を持ち互いの専門性を補い合う存在でもあります。ここでは、探偵業者と弁護士の職務内容、協働の形態、法的・倫理的課題、そして今後の展望について考察したいと思います。
まずは探偵業者と弁護士の職務の相違と共通点です。弁護士は、依頼人の権利や利益を守るため、法律知識と訴訟技術を用いて法的紛争の解決を図る専門職です。弁護士法に基づき、法律相談、契約書の作成、訴訟代理などを行います。一方、探偵業者は「探偵業の業務の適正化に関する法律」(探偵業法)に基づき、依頼者の求めに応じて特定の個人の所在、行動、または信用に関する情報を収集することを業としています。法的代理権を持たないため、法廷での弁護や交渉の代行はできませんが、事実調査のプロとして真実の裏付けを担っています。弁護士が法的評価を行うのに対して、探偵業者は事実の把握を担います。法的紛争の解決においては、法の適用以前に事実認定が不可欠であるため、両者の関係は理論的にも実務的にも補完的であると言えます。すなわち、探偵業者が集めた証拠が弁護士の法的主張を支え、弁護士の指示が探偵業者の調査方針を導くという構図が成り立っています。
次に実務における協働の実態があります。弁護士と探偵業者の連携は、さまざまな分野で見られます。代表的な例として、民事事件における不貞行為の立証、企業間紛争における不正調査、行方不明者の探索、詐欺被害事件の裏付け調査などがあります。例えば、離婚訴訟においては不貞行為の証拠が重要となりますが、当事者が自力でそれを収集するのは困難です。ここで探偵業者が尾行や張り込みを行い、写真・動画などの証拠を収集します。その結果を弁護士が法的に整理し、証拠能力を検討して訴訟に提出するのです。弁護士に依頼された探偵業者は調査の目的と範囲を明確にし、違法な手段に及ばないよう注意して調査を遂行していくのです。また、企業法務の分野でも、探偵の役割は大きいと思われます。内部不正や情報漏えいの疑いがある場合、探偵業者が非公開の形で調査を行い、弁護士がそれをもとに法的責任の有無や再発防止策を検討します。こうした協働はリスクマネジメントやコンプライアンス強化の観点からも注目されています。
しかし、法的・倫理的な課題もあるのは事実です。
探偵業者と弁護士の協働には多くの利点がある一方で、法的・倫理的な課題も少なくありません。まず問題となるのは、個人情報保護とプライバシー権の侵害です。探偵の調査活動は、対象者の行動を観察したり、個人情報を収集したりする性質を持つため、違法な手段に及ぶと「探偵業法違反」や「不正アクセス禁止法違反」「名誉毀損」などに問われるおそれがあります。弁護士が依頼人の利益を守るために探偵業者を使う場合でも、違法行為を助長するような依頼は許されません。また、証拠の信用性と法廷での扱いの問題があります。探偵業者が収集した証拠が合法に取得されたものでなければ、裁判所で証拠能力が否定されることがあります。また、写真や映像が編集されている場合や、尾行報告書が主観的な記述に偏る場合、証拠としての信頼性が損なわれます。さらに、守秘義務と依頼関係の透明性も重要です。弁護士には厳格な守秘義務が課されており、依頼人情報を第三者に漏らすことはできません。したがって、探偵業者を活用する場合には、守秘契約を結び、調査結果の取り扱いを明確にすることが求められます。探偵業者側にも同様に守秘義務があり、依頼人や対象者の情報を他の目的に利用してはならないのです。これらの点を踏まえると、弁護士と探偵業者の協働には合法性・倫理性・透明性という三つの原則が不可欠であると言えます。
弁護士が信頼できる探偵業者を選ぶ際には、探偵業法に基づく届出の有無、過去の実績、調査方法の合法性、料金体系の明確さなどを確認することが重要で弁護士が調査目的を法的観点から整理し、必要最小限の調査に絞ることで、依頼人の精神的、金銭的負担とリスクを軽減できます。探偵業者にとっても、弁護士との連携は業務の質を高める機会となります。弁護士の法的知見を踏まえて調査を行うことで、証拠として有効な情報を効率的に収集でき、弁護士とのネットワークを通じて社会的信用を得ることにもつながっています。近年では、弁護士事務所が専属または提携の探偵事務所と協働体制を築く例も増えています。これにより、法的トラブルの初期段階から調査と法的対応を同時に進めることが可能になり、依頼人の満足度向上や迅速な紛争解決に寄与していると考えられます。
近年のテクノロジーの発展は、弁護士と探偵業者の関係にも新たな影響を与えています。GPSや監視カメラ、SNS、AI解析技術の進歩により、調査手法は高度化しつつあります。しかし同時に、個人情報保護や監視社会化への懸念も強まっています。これからの協働関係には、法的な適正手続きと倫理的自制がより一層求められると思われます。探偵業者と弁護士は、立場も手段も異なりますが、共通の目的は真実を明らかにし、公正を実現することです。弁護士が法を武器として依頼人を守り、探偵業者が事実を武器として真実を照らすとき、両者の協働は最も力を発揮するのではないでしょうか。その関係は単なる業務提携ではなく、法の支配と人権尊重を基礎とした信頼関係でなければならないと思っています。合法かつ倫理的な調査と、的確な法的判断が両輪となるとき、社会の中での正義の実現はより確かなものとなるのではないでしょうか。

